深津 佳子さんインタビュー | 大和美人

『大和美人』とはグローバル化の進む現代の日本社会のなかで、女性がより豊かに美しく誇りをもって暮らすことを目的に設立した非営利団体です。

江戸扇子職人 深津 佳子 さん

「心を平安に保ち、紙と竹の声を聞き、日々、淡々と作り続ける。
粋で洒脱な美しい扇子は思いやりから生まれていた。


江戸末期から続く扇子店を継いだ江戸扇子職人の深津さん。
材料の選定から完成まで、一貫して一人で作業を行う江戸扇子は、すべてが手作り。伝統とグローバルな視野を織り混ぜた新しい扇子も評判を呼んでいる。


すべてを一人で仕立てる江戸扇子

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雅な京扇子に対し、洒落た江戸好みの扇子を江戸扇子と呼ぶ。深津さんは江戸末期創業の扇子店の五代目である女性職人だ。

江戸扇子の特徴は、ひとつは間の数。京扇子では骨がデザインとして意味を持つため、一般的に四〇本以上の骨数を装飾的に見せる。対して江戸扇子は、紙に描いた絵を楽しむのが目的。骨数を十数本と簡素化している。

また、作業の工程を一人の職人がすべて行うことも大きな特徴。デザインはもちろん、地紙の選定から、色引きという紙にベースの色を付ける作業も、すべて深津さん自身が行う。そのため、作業範囲はとにかく多岐にわたる。

扇面をどんな種類にするのかということだけでも、描き絵や柄、料紙、様々な手法に通じていなければならない。一人で仕立てることに対して深津さんは、「骨の最後まで自分で付けるから、思い通りの扇子を作ることができる」と言う。デザインの組み合わせは無限。多様な紙と骨のコンビネーションを、どうやって発想しているのだろうか?

「世の中には、いろんな魅力的な方がいらっしゃいます。その方が扇子を持ったらどうかな、こんな扇子がほしいかな、と考えて作ります」

部屋には様々な扇子が置かれ、描き絵では河童や狸、柄では干割れや唐草など、江戸好みの絵が並ぶ。その中には深津さんが父である先代と一緒に仕事をしていたときに作成した図柄もあった。



ケチらない。仕事も人生も


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皇室の儀礼用や歌舞伎の舞台で使われ続けた扇子の名工である先代が亡くなってから暫くは、とにかく残された仕事を猛烈にこなす日々。しかし、それから数年経ったある日、風船が萎んだように何もやる気が起きなくなってしまった。

100円ショップでも扇子が置いてあるこの時代。当時扇子を卸している店からは「言われたことだけやってくれ」と、父の作った物と比較されるだけで、自分の作った物を、見てくれない。
ふさぎこむ深津さんを立ち直らせたのは扇子のことを良く知らない友人知人達の言葉だった。値段のことなど、外部の人間だからこそ客観的に判断して言えることがある。

「扇子のことは詳しくないけど、深津さんの扇子は全く違うことがわかる」
一体自分の扇子の何が他と違うのか。彼女は父の言葉を思い出し、扇子を作ることの意味を考え直す。
「紙も竹も生き物なので、大切に作って、お客様に楽しんで可愛がってもらいたい」

一つひとつの仕事に丁寧に取り組まれている深津さんの言葉には、扇子への愛情が詰まっている。紙と竹という異質なものの組み合わせである扇子。異質なものを自然な佇まいの美しい道具に見せるためには技が必要。紙と竹の声をよく聞いて、自分の気持ちも平安にして、作業を開始する。


115号p24-2500.bmp今は昔に比べて、紙も竹も質が落ちてきているそうだ。その材料の中で、どれだけよい部分を引き出せるかは腕次第。

「効率的だとか、ケチなことをやっていると、次の仕事へ繋がっていきません」
毎日毎日がスタートだと深津さんは言う。昨日までの自分に甘んじず、どれだけ今日に一生懸命になれるか。

「今こだわらなければ、いつこだわるの?」
そう言って笑う深津さんに、大和美人になる秘訣を伺った。

「人生もケチらない。アレが嫌い、コレが嫌と言わず、どんな環境でも自分を浸してみてほしい。あまり〝自分〞に頑なになるともったいない。素直に受け入れてみれば、世界は広がって楽しいことがたくさんあって、笑顔になれる」



扇子を楽しむ幸せ


115号p24-250000.bmp紙や骨の材料ひとつで、たちまち表情を変える扇子。今、深津さんが新しく取り組んでいるのは、フラワーペインティングやインド更紗を使用した扇子。洋風の絵柄がなんともいえず味わいがあって面白い。

「こんな感じの扇子を持ちたい人がいるかもしれない。こういう扇子で遊んでくれる人がいるかもしれない」
新しい扇子作りにワクワクしている職人魂が感じられる。
いいかげんに扇子を選ぶのは損だと深津さんは言う。絵を楽しみ、職人の技を楽しみ、その扇子ひとつひとつの趣を楽しむ。

「良い扇子を持つことを、女性として楽しんでほしい。扇子でなくてもよいけど、扇子をこだわって選ぶのは楽しいこと。楽しんで買ってもらいたいし、持って楽しんでもらいたいんです」

100年以上続く「江戸扇子」の伝統は、大和美人が吹き込む感性によって、どのような変化を遂げていくのだろうか。

深津 佳子(ふかつよしこ)

東京生まれ。江戸扇子職人。文化学院卒業後、29歳で名工として知られた父・
深津紘三氏の弟子となる。現在、「雲錦堂 深津扇子店」の5代目として、持扇、舞踊扇、飾扇など、様々な用途の扇子を仕立てている。先代の技術を継承しつつも、新しい江戸扇子を考案、制作にはげむ。
東京都伝統工芸技術保存連合会、荒川地区会員。荒川区無形文化財保持者。
雲錦堂 深津扇子店
http://sensu-fukatsu.com/index.html