矢部 澄翔 さんインタビュー | 大和美人

『大和美人』とはグローバル化の進む現代の日本社会のなかで、女性がより豊かに美しく誇りをもって暮らすことを目的に設立した非営利団体です。

書道家 矢部 澄翔 さん

「継続と積み重ねが、夢をかなえてくれる。記憶に残る指導と、心が動く書の制作をこれからも一生続けていきます


「わびさび」「枯淡の境地」といったイメージが浮かびがちな書の世界。ところが矢部澄翔さんの「書」は二次元の世界を軽やかに飛び越える。巨大筆によるパフォーマンス、 音楽や映像を駆使して空間を構成する個展。そこには「書」による鮮やかでカラフルな世界が広がっていた。



会社員時代に知った「開業モデル」と書道展への挑戦が道を拓いた

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ファッションに興味があり洋裁も好きという澄翔さんは大学で「ファッション造形学コース」に進み、ファッションパタンナーを目指したこともあるという。卒業後に転職した株式会社リクルートで「学び事業部(当時)」に配属となり『ケイコとマナブ』などお稽古情報誌の制作に携わった。

「いろいろな習い事の教室を開いている方に取材で話を聞いていると自分と歳があまり変わらない人もいて、若くても教室を開くことができるんだなあと思いました」

その後、澄翔さんは取材した書道学校のひとつに2年間通い、卒業後には師範の看板を掲げて教室を開き、一年後に書道家として独立することになるのだが、その前にある書道展に挑戦した。
「その展覧会には前年も上位入賞したのですが、一番にはなれなかった。だから、独立する前に、自分の力がどこまで通用するかもう一度挑戦しようと思ったんです」

最高賞を受賞すれば書道家としての自信にもつながるし、師範としてのハクもつく。澄翔さんは最高賞を目指して必死に書いた。でも結果は昨年同様ベスト8にとどまった。技術は高く評価されたものの、見る人に訴えるものが足りなかったことを後に知ったという。
「しばらくは落ち込んで筆を持つことができませんでした。先が見えず、何も手につかなくなっていました」

yabe001-thumb.bmpその直後に控えた展覧会の辞退を伝えると、「書道家としてやっていくのにそのくらい出来なくてどうするの!」と澄翔さんの背中を強く押してくれる人がいた。学校で澄翔さんを指導してくれた恩師だ。

「もう賞を競うために書きたくないと思っていたんですけど、賞のためでなく、自分の納得ができる作品を楽しんで書きたいと思いました」

取り組んだのは600字以上もある漢詩。「どうせやるなら」と、あえてそれまで書いたことのない大作に挑戦した。作品は7メートルにもなる大きなもので、もちろんお手本はない。これが見事に最高賞に輝いた。
「野心がなくなってはじめて最高賞を手にできた。書は心がダイレクトに表れるんですね。叱咤激励してくれた恩師のおかげで少しだけ自信を持つことができました」

この二つの展覧会への挑戦が、澄翔さんの書道家としての原点になっているといえるだろう。



新しい分野に挑戦しながら 想いを伝える作品を書き続けたい



yabe002.bmp書家として本格的に活動を始めるためにホームページを立ち上げ、ブログで素顔を公開しながら順調に活動範囲を広げている澄翔さん。サイトには海外でのパフォーマンスの動画や、各地での展覧会、書道教室でのお弟子さんとの交流などが満載されており、その活動の幅広さには目をみはるものがある。

「ホームページの立ち上げや自分自身のブランディングには、会社勤めをしながら参加していたセミナーや交流会などの人脈がとても助けになりました。サイトの立ち上げをお願いしたのも、そんななかでお知り合いになった方です。

掲載する文章に何度もダメ出しをされて最初は泣きそうでした(笑)。最初は何の実績もありませんから形だけのサイトでしたけれど、一つひとつのお仕事を積み重ねて、ようやく形になってきました」

澄翔さんのお話にはたびたび「継続」「積み重ね」という言葉が出てくる。ご自身の経験や教室の指導で、その大切さを実感しているからだろう。

「私の教室では、最初から使いこなすのが難しい羊毛でお清書用の紙を使ってお稽古します。はじめはなかなか上手く書けないんですけど、まずは継続することが大事。
ひとつコツをつかむと一気に伸びます。特に子どもさんには、あきらめないで続けることで得られる達成感を知ってほしい。すぐにそれがわかってもらえなくても、いつか何かのときに〝あのときあんなことを先生が言っていたな〞と思ってもらえるような、記憶に残る指導をしていきたいです。書道家としては書き手の〝想い〞が伝わる作品をこれからも書き続けたい。それに、もっといろいろなジャンルとのコラボレーションにも挑戦していきたいですね」

展示の際に額装や照明といった演出にこだわるのも作品のメッセージを最大限に引き出し、効果的に伝えるため。また、商業ロゴや題字では筆文字が表現する無言のメッセージがどのように受け手に響くかがカギだ。

他者の視点に立つことで得られるバランス感覚や自己ブランディングは、21世紀の「大和美人」には欠かせない。

「書」という伝統的な世界で技を磨きながら、未知の分野を切り拓いてゆく澄翔さん。ネオ・クラシックな書道家として華やかに輝く彼女の好きな言葉は「夢・Dreams come true」。
「書道を続けたことで、いろいろな夢がかなっています。あきらめずに挑戦し続けていけば、人生にかなわない夢はないと思います」

矢部 澄翔(やべ・しょうちょう)

1976年埼玉県川越市生まれ。
6歳より筆を持ち22歳で書道師範取得。文化女子大学ファッション造形学コース卒業後会社勤務を経て小江戸・川越に「眞墨書道教室」を開塾、書道家として独立。
'06年以降スペイン、ニューヨーク、中国、韓国などで書道パフォーマンスを展開。音楽や映像とのコラボレーションも国内外で高い評価を得ている。書の映像監修や題字、ロゴ制作も多数。'05~毎日JP『書を楽しむ』連載。『読むだけで字がうまくなる本』(明日香出版社)監修。
※公式ホームページ http://www.yabe-chosho.com/